Nのブログ

Nのブログ

レアルマドリードについて書きます

レアル・マドリード対アヤックスに見るVARの運用方法

f:id:RedPillN:20190409202822p:plain

まずは、UEFAが公式に出しているこの動画をもとに、VARがどのように用いられるのかを分析する。

 上の動画の内、VARの運用に関わる部分の日本語訳。

ロベルト・ロセッティ「VARの主な目標は正しくない判断を減らすことだ。以下の試合を変え得る状況において。①ゴール、②ペナルティーエリア内でのファウル、③レッドカード、④人物の間違い。オフサイドであったか?、ファールが起きたのはペナルティーエリアの中か外か?などのすべての判断に対して、フィールド内での見直しは必要とされない。VARは単に審判に事実を伝える。レッドカードやハンドを含むペナルティーエリア内でのファールなどの全ての試合を変え得る状況においては、審判に自らの目でスクリーンを見て、最終的な判断を下すことを求める。」

試合を通して、全てのカメラにアクセスすることで、VARのチームは常に4つの試合を変え得る状況における、疑いようのない (clear)、簡単に気づくことのできる (obvious)間違いをチェックしている。VARのチームは、疑いようのない (clear)、簡単に気づくことのできる (obvious)間違いや、重大な見逃しの際のみ、審判とコミュニケーションをとる。審判は、判断が見直されている間、プレーを止めることができる。もしVARでの見直しによって、重大な間違いに対する、疑いようのない (clear)証拠が提供された場合、VARは審判に対して、フィールド内での見直しを行うことを求めることができる。審判のみが最終的な判断を下すことができる。フィールド内で見直しが行われている間、ファンは放送局、コメンテーター、スタジアムのスクリーン、アナウンスによってプロセスを知らされる。

ロベルト・ロセッティ「VARは試合を変え得る状況において、疑いようのない (clear)、簡単に気づくことのできる (obvious)間違いに対する証拠があるときのみ介入する。ゴールシーンにおいては、VARは攻撃時にファールやオフサイドの後にゴールが決められた場合のみ介入する。ルールに則った際にレッドカードで裁かなければならない深刻なファールに対する証拠がある場合にもVARは介入する。」

VARはペナルティーエリア内でのファールにおいても介入できる。

ロベルト・ロセッティ「VARは与えられた全てのペナルティーペナルティーエリア内で起きたすべてのことをチェックする。第一に、VARはペナルティーエリア内でのファールに対する疑いようのない (clear)証拠がある場合に介入する。第二に、次のような基準に則ったハンドの状況でもVARは介入する。腕や手で故意にボールを触る。ボールへの動き。距離。体を大きくするための腕の不自然なポジション。これらの状況では、最終的な判断を下すために、フィールド内での見直しが必要とされる。VARは、見直しを正当化するための疑いようのない (clear)証拠がない場合には介入することができない。」

ここで重要なのは、VARの目的が正しい判断をすることではなく、正しくない判断を減らすことにあることである。両者は、同じようにも見えるが明確に異なる。前者はすべてを白黒はっきりさせる必要があるが、後者はグレーゾーンを認める。例えば、審判がファールでないという判定をした後に、VARの6割がファールであると思ったとしても、判定は覆らない。なぜなら、そのプレーは残りの4割がファールでないと思っており、はっきりと正しくない判定であると言い切ることができないからである。では、判定が覆るのはどのようなプレーかと言うと、動画中にも何度も出てきたように、疑いようのない証拠がある場合ということになる。具体的に、よく見られるのはハンドやオフサイドの場面である。ハンドであるか、オフサイドであるかは置いておき、手に当たっているか、ラインから出ているかはVARの得意分野であり、疑いようのない証拠として簡単に見つけることができる。(オフサイドラインを引くためのテクノロジーを用いていないコンペティションでは、客観的な証拠を見つけることは難しくなる。) この時点で、主審の白(ファールでない)という判定が一度、黒(ファールである)にひっくり返される。そこからさらに、手には当たっているが、腕を後ろで組んでいることやオフサイドラインを越えてはいるが、明らかに関与していないことなどのそれを覆す疑いようのない証拠をVARが見つけた場合にはそこで、再度、黒という判定が白にひっくり返され、主審の判断通りであるため、そこで終了する。しかし、それらは、手に当たっているかやオフサイドラインを越えているかなどのような客観的で疑いようのない証拠を見つけることが難しい。そのため、たいていの場合には一度、黒にひっくり返したものを再度、白にひっくり返すことは難しい。この場合には、黒の状態で、主審の元に戻される。主審は動画や画像を見直すことで、この黒を再度、白にひっくり返すこともできるが、このプロセスにおいても先ほどと同様に疑いようのない証拠が必要となるため、たいていの場合はそうすることは難しい。

ここからは、レアル・マドリードアヤックスの試合における実際のVARの事例について見ていく。

まずは、1st legのこのシーン。

この場面では、VARのチェックにより、攻撃側の選手がオフサイドポジションにいることは疑いようがない。そのため、判定が覆されたうえで主審のもとに戻される。主審がこの判定を再度、覆すためには、この選手が関与していない明確な証拠が必要になるが、それを見つけることはできない。そのため、最終的にはオフサイドということになる。

次に見るのは、2nd legのこのシーン。

f:id:RedPillN:20190307220838p:plain

このプレーにおいて、この角度のカメラからでは、ボールがラインを割っているかを判断することはできない。そのため、中継中には、様々な角度のカメラから見直しを行っていたものの、真上からの画像がない限り、疑いようのない証拠を見つけることは難しい。結局、疑いようのない証拠を見つけることができなかったため、このプレーではVARが主審の判定を覆すことはなかった。

と、ここまで事例を見てきたが、重要なことは、ファールであったかどうかやラインを割っていたかどうかという議論と、VARがどうするべきかというのは別の話であるということである。2nd legのシーンにおいて、ラインを割っていたと言うことは間違いではないかもしれないが、VARがそれを認めるべきだと言うことは間違いである。